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「ポップ1280」~ジム・トンプソンを読んで④ [書評]

 「グリフターズ」で期待を裏切られたジム・トンプソンの次はこれだ!

 ◆「ポップ 1280<POP.1280>」(1964年作)

 それでも、おれには心配ごとがあった。
 おれは考えに考えた。とことん考えた。そして、とうとう結論を出した。
 おれの結論は、どうしたらいいか皆目見当がつかない、というものだった。(本文より抜粋)

 これこれ、この自分勝手で無責任な一人称こそ、やはりジム・トンプソンの真骨頂! ついつられて "いよっ、成駒屋!" と、掛け声の一つも掛けたくなってしまう。

 今作の主人公は、ポッツヴィルという、人口1280人の寂れた田舎町の保安官ニック・コーリー。
 住民にはおっとりした気のいい保安官と思われている主人公はには、なぜか厄介ごとが耐えない。
 町の売春宿にたむろするヒモの二人づれは、何かにつけて言い掛かりをつけてくるし、性格悪い嫁さんは口うるさく、いつも威張ってばかり。
 それに較べ、愛人の色気たっぷりのローズと、頭も良く魅力的なかつての婚約者エイミーの二人は甲乙つけがたく、結局二人とも関係をもってしまう。
 そこに強敵の保安官候補が現れて、さてどうしたものやら・・・。

 いつもいつも思うのだが、ジム・トンプソンの小説のストーリーを書くことほど味気ないものはない。ストーリーは一見えらくチープでさえある。何気ない主人公の人を食った言動にこそ面白みが詰まっているのだ。

 今回は「失われた男」「おれの中の殺し屋」のように、主人公にマッチョ性を持たせていない。逆に珍しく優柔不断で煮え切らない、気弱な男という設定だ。先の2作品には<男>という呪縛が主人公には残っていたが、ニック・コーリーの場合、その部分が希薄なため、表面的にはどこかとぼけたユーモラス感があり、それが後半、得体の知れない不気味さをかもし出して来るのだ。

 まずは邪魔なヒモ二人を撃ち殺し、さらに別の町の保安官も気に食わないから殺し、せっかくだから同士討ちに見せかけて難を逃れたり、保安官候補にあたかも悪い噂があるように画策して失脚させたりと、何の罪悪感なしにそれらをやり遂げる様子は、ジム・トンプソンならではの "お約束" ってやつだ。
 女たちについても、惚れてはいるけれど、邪魔になったら躊躇せず殺す! 「だって君、このままだとおれに迷惑かけるじゃない。だから死んで欲しいんだ~」 こんな感じ。

 事件が一応収束し出す最後の数十ページから、自分勝手な主人公の突飛な心の内が告白されてゆく。それに驚愕するか、アホか!と、立腹するかは読者次第。

 おれはケツの片側を持ち上げて、長々と屁をこいた。近くに人がいたら、できないような屁だ。
 おれはきんたまを掻いた。どこまでが掻いていることになり、どこからが好きでいじっていることのなるのか、見きわめようとしてみた。(本文より抜粋)

 どうですか、こんなヤツなんですよ、主人公ってのは!


 
 左が文庫、右がハードカバーの表紙です。


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