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『アンドロイドは電気羊の夢をみるか?』(映画『ブレードランナー』原作) [書評]

 『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』
 このタイトルが作者フィリップ・K・ディックの頭に浮かんだ瞬間から、傑作への道を約束されたに違いない、SF小説の金字塔。
 映画ファンにはリドリー・スコット監督、ハリソン・フォード主演の『ブレードランナー』の原作と言えば、ああ、なるほどと、納得してもらえることと思う。

 SF小説への処女航海はまだ継続中で、『2001年宇宙の旅』『2010年宇宙の旅』に続いて、これが3作目。ここまで順調に推移しております。
 ちなみにディックの作品には印象的なタイトルが多く、『流れよわが涙、と警官は言った』『パーマー・エルドリッチの三つの聖痕』など、タイトルで読ませてしまう魅力を兼ね備えていると言える。

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 STORY➠多くの人類が火星に移住してしまった地球が舞台。火星から逃亡してきた8人のアンドロイドトは、人間社会に紛れ、生活していた。
 バウンティハンター(賞金稼ぎ)のリック・デッカードは、多くの生物が絶滅してしまった地球で、機会仕掛けの羊しか飼うことが出来ずにいた。それが仲間のバウンティハンンターの負傷により、逃亡中のアンドロイドを追い詰めることとなった。
 彼らに賭けられた賞金で、本物の動物を買う夢の実現の為、デッカードは一人、一人と、狩を成功させていくのだが・・・。

 逃亡してきたアンドロイドの中には、自分を人間だと勘違いしている者がいて、デッカードの同僚として自らアンドロイドを捕まえようとしているのには苦笑させられた。
 このように、人間とアンドロイドとの境界線はあいまいであり、それはどちらが<善>で、どちらが<悪>なのかも表面的に眺めただけでは判断がつかない。

 その最たる出来事が、逃亡したアンドロイドを製造したローゼン協会の秘書、黒髪でほっそりしたレイチェル・ローゼンにデッカードが恋心を抱くシーンだ。
自分がアンドロイドだと認識しているレイチェルも、彼のそんな気持ちに便乗して誘惑する。しかし彼女の行為は恋心なのか、それともデッカードとセックスすることで、自分が人間と同じレベルになれるとの幻想の上なのかは判別し難い。
 デッカードは一度はレイチェルとのセックスを断念しかけたものの、彼女のどこか寂しげな言葉に、再度セックスしようと思い直す。アンドロイドを狩るバウンティ・ハンターが、同じアンドロイドを好きになり、一人の女性として肉体関係を持ってしまった場合、果たしてこれからも狩りは可能なのか? それとも・・・。

 原作はアンドロイドと人間の関係性を縦軸にして、マーサー教という宗教と信仰の問題を横軸に据える。
 真実と事実とは必ずしも一致しない。
 マーサー教の教祖がただのB級映画の端役が演じていたに過ぎなかったとしても、そこに何がしかの真実があるなら、信じるに足る。
 <真実>と<嘘>が、マーサー教、そして、<人間>と<アンドロイド>とを隔てている境界線をぼやけさせて行く。時にそれは逆転し、こうであるはずだ、こうに違いない、といった固定観念を破壊する。
 人間より人間らしいアンドロイド、人間臭さの感じられないアンドロイドのような人間・・・。どちらが正しく、どちらが間違っているのか?

 読むとあなたの平衡感覚を奪われるに違いないこの小説、なかなかに興味が尽きない。


 追記:書評としてここで取り上げた『2001年宇宙の旅』『2010年宇宙の旅』の作者である、アーサー・C・クラーク氏が3月19日未明に死去されました。90歳。
 謹んでお悔やみ申し上げます。

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コメント 4

みん姐

またまた難解そうな本ですね。。
「2001年宇宙の旅」、「2010年・・」のアーサー・C・クラーク氏、亡くなったんですか。
90歳まで長生きしたのは「いつも心にSF」があったから?
素敵な生き方だったんだろうな。星になったかな?
ご冥福を祈ります。

で、この本、タイトルがイケてる~~☆
アンドロイドの方が人間ぽくて、人間の方がアンドロイドみたい・・とか
固定観念をひっくり返すような内容とは興味深い。

余談ですが「回転」のDVDとうとう買ってしまいました!
クラシカルホラー、良いです、やっぱり。。
いつか観て欲しいです。。。
by みん姐 (2008-03-20 20:22) 

TAO

アーサー・C・クラーク曰く「死ぬまでに一度UFOを見たかった・・・」とな。
いくつになっても<夢>と<空想>を忘れない、素敵な人だったんだなあと、思いました。

『回転』、買ったんですね。
ゴシック・ホラーってここのところ全然上映されてないと言おうか、作られてないですよね。こけおどしのホラーばかりで(これはこれで好きだが)、雰囲気でしっかり見せてくれる作品が今では皆無なのが少々寂しいです。
by TAO (2008-03-21 23:04) 

みん姐

クラークさん!やっぱり思った通りの素敵な人生だったみたいですね。
いいなあ・・・
『回転』はほぼ小説の雰囲気を再現していて、モノクロの美しいイギリス田園地方と、奇妙な歌、怖い屋敷・・そして美女!(デボラ・カー)
今、こういうホラーが無くなって本当に残念。
「アザーズ」も少し似ていますが、ニコール・キッドマンではどうも・・・
上品な怖さがないのです。。
by みん姐 (2008-03-22 10:48) 

TAO

アーサー・C・クラークが死去したのが、スリランカだそうです。どうやら移住しちゃってたようで(笑) これなんかも何となく微笑ましいエピソードですね。

デボラ・カー、気品があっていい女優です。
この<気品>てのが難しく、出そうとしたって出やしない。だいいち気品は演技じゃないからね。
イングリッド・バーグマンなんてのも、品があって美人で、言うことなし。
今じゃあこの<気品>てのも死語なんですかね。
あ~、嫌だ、嫌だ。
by TAO (2008-03-22 21:06) 

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