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『あの人の世界』(サンプル) [演劇]

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                     『あのひとの世界/サンプル』


 面白かった、面白かった、何だか変だけど面白かった。
 ・・・というのが、松井周の芝居を観終わった後のいつもの感想。
 
 何がどう変なのかを一言で説明するのは容易ではないのだけれど、ストレートに話が進んで行かないもどかしさと、思わぬ方向へとそれて行く話の方向性とでも言ったらいいのか。
 なので『あの人の世界』もご多分に漏れず、おかしなことになっているのだった。それもこれまで以上に(笑)
 急勾配、急カーブ、一時停止、行き止まり、はては掟破りの<一方通行逆走!>まで。
 予想通り松井周ワールド全開の、多分、これまでの集大成的な【悪夢の迷宮】なのだった。

 物語は死んでしまった愛犬を巡っての、ある一組の不倫男女の、「こちら側の世界」と「あちら側の世界」との地獄巡りなのだが、そこに死ぬに至った愛犬のさ迷いこんだ、これまた不思議な世界での、人間と犬たちの革命を起こさせるミュージカル(犬版キャッツ?)やら、不倫男の妻と母親との、愛憎あい乱れる人探しの話、はたまた記憶を失った青年の自分探しのような運命の女性探しまで、時間も空間も登場人物までもごちゃまぜにした "闇鍋" のような混沌(カオス)が、ポン! とばかりに無造作に観客の前に放り出される。

 なので観客は目の前で進行中の物語を追いかけながら、同時に必死で物語の関係と流れを整理しようと脳内鬼ごっこを強いられるはめになる。
 それでも明快な回答を得られず、そんな自分に苛立っていると、いつの間にやら松井周の張り巡らした<迷宮>に足を取られて今にも転倒しそうになっている自分に気が付き、冷や汗が一筋背中をタラリ・・・。
 しまった!
 と、後悔する間もなく、しかし、<迷宮>巡りの快楽に、いつしか我を忘れ、もっともっとと谷崎潤一郎か団鬼六ばりのマゾヒストに大変身!

 すべてが出揃うエンディングと、エンドロールのその後に訪れるエピソードは、まるで抜け出せない地獄巡りの繰り返しのようで、後味はすこぶる悪い。
 
 
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