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『垂る』(ポかリン記憶舎) [演劇]

 これは真冬(観賞したのが12月だから)の怪談噺なのだろうか?

 遊覧船からのきれいな夕日を眺めに船着場を訪れた青年と少女。今年最後の出向にはまだ1時間あり、待合室のベンチに腰掛けて時を待つ。
 そこにもう一組のカップルと、絶えず誰かに携帯で電話しているOLが同じようにそこにやって来る。
 取りとめのない会話がそれぞれの間で遠慮がちに進められるが、相手に向けられる笑顔の中に、どこか暗い影のようなものがうかがえる。
 それが何故なのかはわからない・・・。

 そんなところへ一人の老女が現れ、船に乗るなと告げる。
 夢の中で若い男が乗客を次々と刺し殺していたと・・・。
 バカバカしいと一笑に伏すものの、その言葉がじんわりとそれぞれの思いを侵食し始める。
 もし、事件が本当に起きたら、
 もし、今日が最後の日だったら、
 冗談の中に知らず知らずのうちに忍び込む、避け難い感情はいったいどこから来るのだろうか?

 遊覧船の待ち人に加わった車椅子の老人は、しかし、歩けるにもかかわらず車椅子に乗っていた。死んだ息子の替わりだと。
 一方、携帯を手にしたOLは、以前付き合ったことのある男にそっくりだと、まったくの他人の青年を追い詰める。
 「さて、どこからやり直しましょうかしら?」

 仲が良さそうに見えた2組目のカップルは、実は男の方が別に女を作り、隣にいる彼女と別れたがっているらしい。それが本当かどうかは分からないが、少なくとも彼女はそう思いこんでいる。
 
 老女の出現により、ごく平凡な日常が、気が付いたら不安定に傾き、実は平凡な日常などどこにもないのにハッと気付かされる。
 そんな状況で新たに現れた背の高い青年・・・。

 事件が起こる、起こらないは問題ではない。
 ひょんなことから、それも何の根拠もないただの夢の話から世界はあっさりと崩壊する。
 何を信じていいのか分からない。
 何にすがっていいのか分からない。

 遊覧船の出航後、青年と少女は再び待合室に戻る。
 結局誰が船に乗ったのか、それとも誰も乗らなかったのか、答えは明確には提示されない。
 それならば今青年の前にいる少女が本当にそこにいるのかの確証はない。
 もしかしたら青年にとって、そういう未来もあるということだけなのかもしれない。
 殺人事件は、実は起きていた?
 不意の死を理解出来ない少女は自分が死んだことを知らず、これまでとなんら変わらず、そこに現れたとしたら・・・。

 どうやらこの芝居は人の=意識の境界線=の物語のようだ。

タグ:ポかリン
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