SSブログ

『ハコブネ』(サンプル) [演劇]

 注)今年2月に観たにもかかわらず、書きもらしてしまっていた作品として


 『家族の肖像』『伝記』『あの人の世界』の最近の3作を観て思うのは、作家の<家族>というものへのこだわりの強さだ。
 ■家族としての役割が形骸化し、その意味が曖昧としてしまった昨今、それでも家族を模索する登場人物たち。
血のつながりなんてなくても家族足り得るのじゃないか・・・と(『家族の肖像』)
 ■かと思えば、家族とは血のつながりがあって初めて家族と呼べるんだ、という、昔ながらの家長が、しかし、自分の伝記を書くにあたり、その確信が揺らぎ、崩壊に至る(『伝記』)
 ■複雑に入り組んだ人間関係は、あの世とこの世にまたがって、それでもって、更に人間と犬が入りくりに・・・。
 誰が誰と、あいつがこいつと、離れ難く結び付き、結び難く離れる。それでもこれも家族の始まりの終わりの始まり???(あの人の世界)

 さて、サンプル第四弾(個人的に)は、九州のいち地方都市との提携という、ちょっと変則な事情ながら、作られた作品はまぎれもなく松井周のもの。歴代の主演を演じる古館寛治の、髭にメガネ顔を目にしたとたん、ああ、「サンプル」だあ~と、無条件に反応してしまうようになってしまった。

 就職難も都会に比べて一段と厳しい地方都市の配送センターらしき職場。
 ラジカセで軽快な音楽を流しながらの、まさに流れ作業は、キビキビとはいかないようで、適度にタラタラ、途中で滞りながら進んで行く。
 拡声器を手に、号令をかける工場長。彼は彼なりに従業員を気遣い、優しい声などかけるのだが、社員&バイトの人たちには、あまり好かれているようには見えない。

 キーワードである「家族」はここには出て来ない。それでも社会を構成する会社という単位においては、擬似家族と呼ぶべき集合体が確かに存在する。
 工場長が家長たる父親であり、従業員は子どもたち。長兄、次兄、長女、次女、幅広い年齢層が時間と場所を共有し、生活の一部を共に過ごす。
 工場長は気に入った女性には色目を使い、仕事の遅い青年には、容赦なく声を荒げる。
 そんな家長の態度を苦々しく思い、地位の転覆を図る長兄。
 無意味な威厳と赤裸々なへつらいにNOを付き付けられ、工場長の地位を奪われてしまう彼は、いち社員として働くも、ついに堪忍袋の尾が切れて、暴発!!

 この爆発の仕方が松井流で、な、なんと、工場長は髭づらに女装、ハイヒールまで履いて、好き勝手! おまけに女言葉!!
 『伝記』に続いて、ここでも威厳は転覆され、地に落ち、無慈悲に放り出されるのだった。
 それでも工場は別の人間をすげ変えて進んで行く。
 ざわついた職場も、長が変わっても別段向上するでもなく、それなりにまとまり、仕事はいつものように流れて、またいつもと変わりない風景が当たり前のように広がるだけだった。

 『ハコブネ』という意味深なタイトルは、現在(2010年)の日本のどこにでもある地方都市をモデルケースとして、ということは、これが日本の一般的な風景でもあるわけだが、記録しておく(箱舟に乗せておく動物のように)必要性を提示するものなのかもしれない。

タグ:サンプル
nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:演劇

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

LOVE『自慢の息子』(サンプル) ブログトップ

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。