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『自慢の息子』(サンプル) [演劇]

 『自慢の息子』というタイトルからして、やはり<家族物>であることは明らかで、ああ、やっぱり松井周氏は<家族>にこだわっているんだなあ・・・と、一人納得してしまった。ただし、<家族>なる形態がこれまでのように維持出来なくなっている現代において、新たなる家族の姿を模索しつつ、そこにも安住の地は約束されていないかも、と、シニカルな視点も含みつつ、物語は進んで行くのであった。

 自らが統治する王国、正(ただし)を建設した自慢の息子こと、正(ただし)。と、言葉にすると格好良いが、単に自分のアパートの一室をそう呼んでいるような気配も濃厚。時々、隣人の女が洗濯物を干していたりする光景も見える。
 そこへ母親と、精神的な近親相姦兄妹が、ガイドに案内されて国を訪れる。そこは大きくて白い布が何枚も敷かれた場所だった。
 若い女の入国に、国王には后が必要だろうと、鼻の下を伸ばす正。周囲を見ると王国の住人は彼ら以外には小さな人形がいるのみ。ちなみに小さな住民は宅配便で送られてくる(ということは単に購入しただけなのだが)。どうも王国の存在も曖昧で、単なる引きこもりの集団生活のようにも思える彼らに未来はあるのか?

                            ★

 母=息子、兄=妹、隣人の主婦=その息子、単純に登場人物を並べて関連付ければ至極単純なれど、そうは問屋が卸さないのがサンプルの芝居で、個々の結び付きがお互いにプラスに働くはずもなく、例えればマイナス同士の依存症なのだ。
 そのマイナス同士にしても、同じ方向を向いているならまだ救いもあるのに、バラバラだったりするものだからなおさら性質が悪い。
 過去のサンプルの作品を観ると、成り立たぬ関係を無理矢理成り立たせているようなところが多々見受けられるし、なんか近作になればなるほど、どんどん、バラバラになっていっているような気もする。ここでも関係はへその緒のようにつながり、それに影響されるのだが、どうもつながりながらも、各自が勝手に自分の思い込みの中にはまり込んだままなのだ。
 互いに勝手な思い込みに浸りながら、ねじれた方向に突き進んで行く。だから結局、呪縛からは逃れられない。逃れられないなら逆に徹底的にそこにからむのかというと、それも違い、自分の世界に固執したりする。
 この押してもダメ、引いてもダメ状態のまま、自分の妄想で作り上げた世界の中で中途半端に生き永らえて行く・・・。

 このイキそうでイケない中途半端なセックスのようなもどかしさが、2010年のここ日本国の我々の自画像なのだろうか?
 戦争もなく、極端な貧困もなく、教育水準も高く、長寿世界一、それなのに自殺率も世界トップクラス。
 テクノロジーは発達し、誰とでも仲良くつながっていられる夢の国、決して大人になる必要のない国。
 (マイケルもこの国に移住すれば死なずに済んだかもしれないのに・・・)
 もしそうなら、我々は過去、誰も遭遇したことのない悲劇の真っただ中に存在していることになる。ああ、これってやっぱり不幸じゃない???

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