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『奇跡』(カール・ドライヤー) [映画]

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                  『奇跡/カール・ドライヤー』(1955)


 1955年製作の白黒映画なのである。
 それもデンマーク映画。 さすがBS、こんなのも放映してくれるのである。ありがたや、ありがたや、、、。

 北欧映画を代表する傑作であり、それを飛び越え、世界の映画史にも必ずといってよいほど登場するこの作品。例えれば、北欧家具の特徴である、装飾を極力排除した果てに完成した至ってシンプルなフォルムのようなのだ。

 農場を経営する信仰心に溢れた一家に訪れた『奇跡』の物語は、二男の結婚問題(恋人と宗派を別にする)に端を発し、長男の嫁の死産、と嫁自身の死亡、そして彼女の生き返り(=奇跡)というもので、こうして文字にしてしまうと、あまりにも単純極まりない。
 それに加え、死者の復活という宗教絡みの胡散臭さが加わるのだが、監督のカール・ドライヤーは本人も敬虔なキリスト教徒ということもあり、至極真面目に奇跡の物語をリアリスティックな眼差しで描いている。

 それにしても製作が1955年なので、まだカラーではなく、白黒。しかし、単色な画面は百凡なカラー作品よりよっぽど美しい。まるで墨絵のように、白と黒の中に、無数の色が含まれているかのようなのだ。車のライトが壁に映り、その光があたかも神の姿を連想させるくだりとなるシーンは特筆に値するだろう。
 それに加え、ほとんど室内で撮影された、その室内の家具の配置や人物の立ち位置、動きに、かなりの神経を張り巡らされていて、画面構成も見事だ。

 死んだ長男の嫁の生き返りを予言する、キツネつきならぬ、"神様つき" となった神学校の生徒である末弟の存在と、彼の言葉を信じる無垢な心を持った幼い少女の願いが、『奇跡』を起こさせるラストなど、圧巻である。<神を信じるには、幼子のように無垢でなければならない>というカール・ドライヤーのメッセージがここに込められている。

          ★          ★          ★          ★

 映画の出来にはまったく文句がないし、噂に違わぬ傑作であるとも認めるにやぶさかではないこの作品。
 もし疑問があるとするなら、作品にではなく、宗教それ自体に対する疑問である。
 映画では二男と彼が愛する恋人のそれぞれの父親(=家長)が、同じキリスト教でありながら、宗派が異なるため、お互いの主張を譲らず、相手を拒否するのだ。確かにプロテスタントとカソリックを例に出すまでもなく、そのような実例には事欠かないのであるが、失礼ながら信仰心に薄いボクからすると、宗教で救われることもあろうが、逆に宗教にがんじがらめにされてしまうことも多いのではなかろうかと、老婆心ながら心配になる。こうでなければならない、それはダメだというような規律が、時に精神の自由を奪い、かえって人を生きずらくしてしまっているように思えるのだ。
 「いいじゃない、細かいことは・・・」的な、ある種のいい加減さも、時には有用である、なんて考えはやっぱりダメなんだろうか?
 宗教を取り上げられたものを観賞する時、いつもそんな気持ちになってしまうのだ。
 これって間違っているのだろうか?
 
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コメント 2

みん姐

こんにちは!
カール・ドライヤー監督作品は、古いのに刺激的ですね。
『裁かるるジャンヌ』、『吸血鬼』を観たことがありますが、
無声映画ですが人物の表情の撮り方に長け、怖い。。。
黒沢明にも凄く影響を与えているな・・・と感じるものでした。
特に『裁かるるジャンヌ』はジャンヌ・ダルクが火刑になるシーンが怖い!
ジャンヌの視線で、足元があぶられていく恐ろしさ。。
それと、裁く人々の邪悪な表情と、ジャンヌの無垢な表情の対比。
カール監督は鬼才です。
『奇跡』もぜひ観たいなあ~~
宗教を扱う欧州の映画は、シビアですよね。
私も「いいじゃない、細かいことは」って言いたくなりますよ。
日本人にはなかなか理解できない・・・・・・



by みん姐 (2011-01-11 12:28) 

TAO

構成主義的な画面の切り取り方や光の効果等、やはりただ者ではありません、この監督。
それにしても昨今の世界情勢を見るにつけ、宗教の対立は益々激しくなるばかりのような気がします。
ニューヨークではコーランを燃やそうとしたりと、
「それをやっちゃあおしめえよ~」と、寅さんじゃあないけれど、言いたくなります。
逆にイスラムの人に聖書を燃やされたら嫌でしょうに。
時々、アメリカ人の無神経さがすべての元凶じゃないの? と、嫌みのひとつもこぼれますな。
by TAO (2011-01-12 22:58) 

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