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『真夜中の電話』(ロバート・コーミア) [書評]

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     『真夜中の電話(In The Middle Of The Night)/ロバート・コーミア』(扶桑社ミステリー)


 一部翻訳ミステリー・ファンの間ではカルト的人気を誇るロバート・コーミア。
 代表作は映画にもなった『チョコレートウォー』(1973)で、以降、地味ながらもここ日本でも10冊近い翻訳が出版されている。
 コーミアを象徴する見出しを付けるなら、<青春ミステリーの巨匠!>かな?

 この『真夜中の電話』は1995年の作品。
 デニー少年の父、ジョン・ポールは、学生の時に劇場でアルバイトをしていた。その劇場はかなり古く、建物の強度を不安視されていた。ある日、子どもたちが集まるイベントの日の夜、ジョン・ポールは、2階からするきしみ音の原因を見つけに火を手に暗闇を覗いていたのだが、誤って手にした火を燃え移らせてしまう。それと同時に、2階の観客席が落ち、下にいた人たちを直撃。結果、22人もの人たちが犠牲になる大惨事となってしまう。
 それ以来、ジョン・ポールは事件の直接の原因を作ったわけではなかったにもかかわらず、街から街へ、逃げるようにしてひっそりと暮らしていた。
 時は流れ、ジョン・ポールの息子デニーのもとに一本の電話がかかってくる。ルルと名乗った女性は過去の大惨事と関係があるようなのだが・・・。

 物語設定は上手い。特異なシチュエーション提示はコーミア独特なもので、それだけでこの作家が平凡なミステリー作家ではないことがうかがわれる。しかし、単にストーリーだけを見れば、ツカミは抜群なのに、その後が今一つなのは惜しい。そこがコーミアを人気作家の地位に持ち上げるのを妨げているような「気がする。
 だからミステリーとして読むと、ルルという人物の種明かしも別にどうということはない。正直、え? これなの? って感じなのだ。嫌な言い方をすると、肩すかし。

 では、どこが面白いのか?
 それは、まず、冒頭にも記した通り、「青春ミステリー」として、10代の少年少女の心情とか、若さに翻弄される登場人物とか、とにかく人物描写が上手いのだ。
 それと、事件はいちおうの解決を見るが、それがそのまま主人公の心の不安を取り除きはしないという事実。普通は解決したら新しい明日に向かって歩き出せるものなのだが、コーミアの主人公に限っては、たいして状況は変わらなかったりする。事件が解決しようがしまいが、同じ陰鬱な明日が続く・・・。
 これは考えてみればかなり理不尽で、なんらかのカタルシスを求める読者を煙に巻く。嫌~な気分で読み終わるのだから。読み終わった後、ハア~、、、と、ため息のひとつでもつきたくなってしまうのだから。

 巻末で「特別解説座談会」と称して、3人作家や評論家の方が、コーミア読もうね! と宣伝して下さっておられるが、これまで通り、一部のファンの間でこっそりと読まれるといったこれまでの構図が実はこの作者には合っているのではないのかなと。あまりにも人気がなく、出版されないのは困りものなれど、必要以上に騒ぐ必要もないのかもねというのが、正直な感想。


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